May 29, 2013
真面目な意見で言えばポッドキャストみたいなものってもう時代遅れだと思うんですよ。今はその日に思ったことやその日の情報がその日の内にチェックできるっていう時代にどんどんなってきてると思うんで、そのニーズに合わせるならこの方法しかない。
April 13, 2013
March 2, 2013
February 24, 2013
その内に頭が変になった。行燈も蕪村の画も、畳も、違棚も有って無い様な、無くって有る様に見えた。と云って無はちっとも現前しない。ただ好加減に坐っていた様である。ところへ忽然隣座敷の時計がチーンと鳴り始めた。
はっと思った。右の手をすぐ短刀に掛けた。時計が二つ目をチーンと打った。
夏目漱石「夢十夜」
February 17, 2013
疲れ切ってはいるが、それが不思議な陶酔感となって彼に感ぜられた。彼は自分の精神も肉体も、今、この大きな自然の中に溶込んで行くのを感じた。その自然というのは芥子粒程に小さい彼を無限の大きさで包んでいる気体のような眼に感ぜられないものであるが、その中に溶けて行く、ーーそれに還元される感じが言葉に表現出来ない程の快さであった。何の不安もなく、睡い時、睡に落ちて行く感じにも多少似ていた。一方、彼は実際半分睡ったような状態でもあった。大きな自然に溶込むこの感じは彼にとって必ずしも初めての経験ではないが、この陶酔感は初めての経験であった。これまでの場合では溶込むというよりも、それに吸込まれる感じで、或る快感はあっても、同時にそれに抵抗しようとする意志も自然に起るような性質もあるものだった。しかも抵抗し難い感じから不安をも感ずるのであったが、今のは全くそれとは別だった。彼にはそれに抵抗しようとする気持は全くなかった、そしてなるがままに溶込んで行く快感だけが、何の不安もなく感ぜられるのであった。
志賀直哉「暗夜行路」P553
消魂しく
志賀直哉「暗夜行路」P483
彼は甚く弱々しいみじめな気持ちになるかと思うと、発作的に疳癪を起こし、食卓の食器を洗いざらい庭の踏石に叩きつけたりした。或時は裁縫鋏で直子の着ている着物を襟から背中まで裁ちきったりした事がある。
志賀直哉「暗夜行路」P479
「下らない奴を遠ざけるのは差支えないが、時任のように無闇に拘泥して憎むのはよくないよ」末松は突然こんな風に水谷の事をいい出した。
「実際そうだ。それはよく分っているんだが、遠ざける過程としても自然憎む形になるんだ。悪い癖だと自分でも思っている。何でも最初から好悪の感情で来るから困るんだ。好悪が直様此方では善悪の判断になる。それが事実大概当るのだ」
「それは当ったように思うんだろう」
「大概当る。人間に対してそうだし、何か一つの事柄に対してもそうだ。何かしら不快の感情が最初に来ると、大概その事にはそういうものが含まれているんだ」謙作は昨夜水谷が停車場へ来ていた事、それが不愉快で、知らず知らず糸を手繰って行った自身の妙な神経を想った。
志賀直哉「暗夜航路」P469
二人は暫く黙っていた。謙作の頭の中は熱を持ったようになり、疲れたまま冴えていた。静かな晩だ。寝静まった感じで四辺は森々としていた。そして只この座敷だけが熱病にうかされ、其処には「凶」という眼に見えぬ小さなものが無数に跳躍しているように謙作には感じられるのだ。
志賀直哉「暗夜航路」P459
間もなく二人は床に入ったが、互いに気持ちよくなった筈で、何だか、白々しい空気の為め溶け合えなかった。当然謙作はそうして弱り切っている直子を自身の胸に抱きしめてやるべきだったが、それがわざとらしくて出来なかった。直子は泣きもしなかったが、掻巻の襟を眼まで引上げ、仰向けに凝っと動かずにいる。それは拗ねているのでない事は分っていながら、謙作はこの変な空気を払い退ける事が出来なかった。口では慰めたが、自身の肉体で近よって行く気にはなれなかった。
志賀直哉「暗夜航路」P457
謙作は異う荷から華革張の函を出して来てやった。直子はそれも喜んだが、所々少しはがれかけた所などを気にした。それを見て謙作は云った。
「お前には今出来を買ってくればよかった。何でも見た眼が綺麗ならいいんだから」
「そう軽蔑するものじゃあ、ないわ」
「実際そうじゃあないか」
「段々分かって来てよ」
志賀直哉「暗夜行路」P451
南山から北漢山を望んだ景色が好きで、彼は二度其所へ出かけて行った。景福宮、晶徳宮、それから夜は一人で鐘路の夜店あさりをした。古い螺鈿の鏡台があり、欲しかったが、毀れている割りに値が高かった。彼は美しい華革張りの文函を直子の為めに求めた。これも今出来でなく、いい味があった。
志賀直哉「暗夜航路」P441
「何しろ六十円の旦那だからな。威張れねえよ」こんなことを云い、そう云う女にこんなにも嫉妬を起こす自身を憐れむ風さえあった。
志賀直哉「暗夜行路」P385